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ピクトリコプロ・デジタルネガフィルムTPS100で楽しむ写真の特殊技法「Cyanotype(サイアノタイプ)」

アルビューメンプリント

写真

アルビューメンプリントとは?

アルビューメンプリントは卵を用いるため「鶏卵紙」とも呼ばれる。1850年にフランスで発明された。撮影技法のコロジオン湿板のネガと相性がよく、美しい画像が安定して得られたため、アルビューメンプリントは広く世界中で使われるようになった。そのため、ゼラチンシルバー印画紙が工場で大量生産されるようになる1900年頃までは、アルビューメンプリントがもっとも一般的な写真プリントだった。

日本では明治期の開港地の写真師たちが作った「横浜写真」がよく知られている。これはアルビューメンプリントに手彩色を施したもので、外国人に人気の土産物だった。現存するものも多く、当時の「風俗」をよく伝えている。とはいえ、実際の情景を撮影したというよりはむしろ、ほとんどの写真が当時の欧米人の異国情緒に迎合するような内容にアレンジされている。

アルビューメンプリントの技法的な特徴としては、卵の白身で紙の表面に塗布膜(バインダー)を作り、それに硝酸銀を反応させて感光層にする。塩と硝酸銀を反応させて感光性を持たせるのはタルボットが最初に発明した写真術カロタイプ(塩化銀紙)と同じであり、ゼラチンシルバープリントとも同じ原理。卵白でバインダーを形成することで精細感があがり、処理も安定する。

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アルビューメンプリントの簡単な手順

<主な材料>
  • ・卵 10個パック
  • ・食塩
  • ・酢
  • ・水
  • ・紙
  • ・硝酸銀
  • ・印画紙用定着液(もしくはチオ硫酸ナトリウム)
  1. 1 デジタルネガフィルムTPS100を使用し、プリンターで画像の左右と明暗を反転させたデジタルネガを作成する。

    デジタルネガフィルムTPS100を使用し、プリンターで画像の左右と明暗を反転させたデジタルネガを作成する。

  2. 2 鶏卵紙を作成する

    1. 2-1

      卵白液の準備
      <材料>
      卵白(300cc)約10個 あまり新しすぎないものが使いやすい。
      食塩 9g
      酢 1~2cc
      使用するのは卵白だけなので、黄身と白身を分ける。Mサイズの卵10個で約300ccの卵白が用意できる。 卵はあまり鮮度が良いと卵白が硬いので、採卵から1週間程度過ぎたものの方が使いやすい。

      鶏卵紙を作成する

    2. 2-2

      卵10個分の白身のみを取り出したら、食塩を9g加える。家庭用の普通の塩でOK。次に酢を1~2cc加える。食用の酢でかまわない。

    3. 2-3

      泡の角が立たなくなるまで、泡立て器で泡立てる。
      泡が消えて液体になるまでラップをかけて放置する。

    4. 2-4

      ガーゼなどで漉して、残った不純物を取り除く。
      完成した卵白液はすぐに使えるが、数日から1週間程度エージングするとさらに使いやすくなる。

  3. 3 コーティング

    1. 3-1

      バットなどを使ってプリントに使用する紙を卵白液に1分程度浸す。
      引き上げて液を切って乾燥させる。紙の表面に泡が残ると画像に影響が出るので、ティッシュペーパーの角などで取り除く。
      垂れてくる液もこまめに吸い取る。

    2. 3-2

      乾燥すればコーティング完了。この状態で数日保存可能。密封して冷蔵、冷凍すればさらに長期間保存できる。

  4. 4 硝酸銀溶液の用意と塗布

    1. 硝酸銀 15g
      蒸留水 100cc

      蒸留水100ccに硝酸銀15gを溶かした硝酸銀溶液を作り、乾燥させた紙に刷毛などで塗布する。
      ※硝酸銀が手や衣服に付着すると黒ずんでなかなか落ちないので、硝酸銀や溶液を扱う時は手袋や作業着を着用する。
      ※硝酸銀溶液には感光性はないので、明室で取り扱いできる。ただ、保存は遮光できる容器が望ましい。

  5. 5 露光

    1. 紙が乾いたらネガを密着させ露光する。額縁などを利用するといい。
      光源は太陽光、紫外線蛍光灯、タングステンランプなど。

  6. 6 水洗・定着

    1. 露光が済んだら流水で1分間水洗する。印画紙から白濁した液がなくなるまで。
      硬膜剤の入っていない定着液で約5分定着。
      再度流水で30分~1時間水洗いし乾かし完成。

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アルビューメンプリントで作品制作をしている作家

大藤健士

大藤健士

写真作家。古典技法を用いるオルタナティブ・プロセスで作品制作を行っている。現在では忘れられた存在の、明治・大正期の日本の芸術写真家たちの復権と継承を目指している。

  • キヤノン デジタル・クリエーターズ・コンテスト2003 ゴールド受賞
  • INTERNATIONAL PHOTOGRAPHY AWARDS 2006  Fine Art部門  1st place受賞
  • ウェブサイト:http://plastics.if.tv

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大藤健士さんにとってアルビューメンプリントとは

アルビューメンプリントに出会ったきっかけ

アルビューメンプリントは、ゼラチンシルバー印画紙が大量生産される前に広く一般に普及していた写真であるため、もともと技術史的な関心を持っていました。別の古典技法であるガムプリントの研究中に試してみたのが最初です。そのときはあきれるほど手軽に「写真」ができるので驚きました。ガムプリントに比べるとあまりに簡単に成功したため手応えがなく、すぐには関心を持てませんでした。

アルビューメンプリントは、きれいな画像を簡単にプリントできる優れた技法なのですが、その安定の良さのために、かえって特徴のないふつうの写真になってしまうことがあると感じています。

なぜ鶏卵紙で作品を表現したいと思ったか

作品制作において私が主に関心を持っているのは、写真史の一時期に流行しやがて忘れられた、ピクトリアリスムという系統の写真表現です。ピクトリアリスムは簡単に言うと絵画調の写真のことです。

アルビューメンプリントはピクトリアリスム期にはあまり用いられることはありませんでした。しかし、テストしてみたところ適切な紙と組み合わせると独特のマチエール(絵肌)を生むことがわかったため、現在研究を進めています。柔らかいトーン再現と美しいマチエールをうまく組み合わせることができれば、アルビューメンプリントによる全く新しい表現も可能になるのではないかと思います。

アルビューメンプリントの魅力

写真の古典技法というと、面倒でマニアックな印象があるかもしれませんが、実際のところ、アルビューメンプリントには特別な設備や機材はほとんど必要ありません。私が開催しているワークショップでも、家具や雑貨を販売しているお店の店内でアルビューメンプリントを制作しています。暗室が必要なくプロセスも簡単なため、ゼラチンシルバープリントよりも手軽だと言ってもいいかもしれません。ごく簡単な設備で歴史的な技法を再現できることは、アルビューメンプリントの魅力のひとつだと思います。

また、オルタナティブ・プロセス全般に言えることですが、紙の種類やサイズを自由に選べることも、インクジェットプリントやゼラチンシルバープリントにはない大きな魅力です。手漉きの和紙を用いれば、完成したプリントは100%ハンドメイドになります。

「ピクトリコプロ・デジタルネガフィルムTPS100」を使った感想

アルビューメンプリントは、シンプルで完成された技法だと言えます。つまり、きれいな画像を簡単に安定して得ることができる反面、プリント作業の段階で調整できることは限られています。そのため、プリントの諧調を美しく仕上げるためには、写真の元になるネガのトーンがとても重要になってきます。

アルビューメンプリントは中間から暗部のトーン再現が比較的難しいのですが、TPS100は微妙なトーン調整にも良く応えてくれます。海外のオルタナティブ写真作家の間で、TPS100が標準のデジタルネガフィルムとして使われていることにも十分納得ができます。

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